近年、自然災害や感染症の流行、サイバー攻撃など、商業施設や店舗を取り巻くリスクは多様化しています。今回の記事では、商業施設・店舗におけるBCP(事業継続計画)対策の重要性から具体的な実施方法まで、実例を交えて詳しく解説します。
目次
商業施設・店舗においてなぜBCP対策が重要なのか
BCP(事業継続計画)とは、Business Continuity Planの略称で、災害や事故など予期せぬ事態が発生した際に、事業の継続や早期復旧を図るための計画を指します。
具体的には、想定されるリスクに対する予防策や、緊急時の対応手順、事業復旧のための体制などを定めた行動計画です。近年、自然災害の激甚化やパンデミック、サイバー攻撃の脅威増大など、事業継続を脅かすリスクが多様化する中で、その重要性が高まっています。
商業施設や店舗は、多くの人々が集まる場所であり、地域社会においても重要な役割を果たしています。災害や事故が発生した際、従業員や来店客の安全確保はもちろんのこと、地域住民の生活を支える重要なインフラとしての機能も求められるでしょう。
さらに、営業停止による経済的損失は、事業の存続自体を脅かす可能性があります。2011年の東日本大震災では、多くの商業施設が長期の営業停止を余儀なくされ、その後の事業再開に大きな困難を伴いました。また、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行は、従来のBCP対策の想定を超える事態となり、改めてその重要性が認識されることとなりました。
商業施設・店舗特有のリスクと対策
商業施設や店舗が直面する可能性のあるリスクは多岐にわたります。それぞれのリスクについて、具体的な対策とともに見ていきましょう。
自然災害
地震、台風、豪雨など、日本は自然災害が多い国として知られています。2018年の大阪北部地震では、多くの商業施設で天井材の落下や商品の転倒が発生[1] し、人的被害も報告されました。このような事態に備えるためには、建物の耐震化や什器・備品の固定が求められるほか、非常用電源の確保や避難経路の確保と定期的な点検も欠かせません。さらに、災害時の初動対応マニュアルの整備と、それに基づいた従業員への教育・訓練も重要な対策となるでしょう。
感染症の流行による影響
感染症の流行により、商業施設・店舗は営業時間の短縮や来店客数の減少、さらには一時的な閉鎖を強いられるケースがあります。感染症対策として、徹底した衛生管理、換気設備の強化、非接触型サービスの導入などが挙げられるでしょう。
また、従業員の健康管理体制の整備や、感染者発生時の対応マニュアルなどの作成も重要です。ソーシャルディスタンスを確保するための店舗レイアウトへの変更など、運営方式の見直しも必要となります。
テロ・犯罪による被害
不特定多数の人が利用する商業施設は、テロや犯罪のターゲットとなる可能性があります。近年では不審電話などの事案も報告されており、このようなリスクに対しては、防犯カメラの設置や警備員の配置による物理的な防御が基本となるでしょう。
さらに、不審者の早期発見システムの導入や、警察との連携体制を構築するほか、従業員への防犯教育を通じて日常的な危機管理意識を高めることも大切です。
物流停止による影響
自然災害や感染症の流行は、サプライチェーンの寸断をもたらす可能性があります。2020年の新型コロナウイルス感染症流行初期には、多くの店舗で商品の供給が滞る事態が発生しました。こうしたリスクに対しては、複数の仕入れ先を確保することが有効です。また、適切な在庫管理や代替輸送手段の確保、さらには取引先とのBCP連携も効果的でしょう。
情報セキュリティインシデントによる影響
デジタル化が進む中、サイバー攻撃のリスクも増大しており、特に顧客情報や決済システムへの攻撃は事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。情報セキュリティ対策としては、セキュリティソフトの導入や従業員教育の実施が基本となる一方で、定期的なバックアップの実施やインシデント対応手順の整備も欠かせません。
BCP対策の策定手順
効果的なBCP対策を実現するためには、以下のステップを段階的に進めていくことが必要です。ひとつずつ解説していきます。
基本方針の策定
BCP対策の第一歩は、組織としての基本方針を明確にすることです。経営層による方針のもと、BCPの目的や対象範囲、基本的な考え方などを洗い出しましょう。また、事業継続の優先順位と、それに投じることのできる経営資源についても具体的に定めていく必要があります。
リスク分析
自社を取り巻くリスクを包括的に分析しましょう。過去の事例や専門家の意見を参考にしながら、リスクが生じる可能性と影響度を評価します。この評価に基づいて、優先的に対応すべき事柄を特定していきます。
重要業務の特定
このステップでは、事業継続のために不可欠な業務を特定します。商業施設・店舗の場合、施設の安全確保や商品供給の維持、決済システムの維持、顧客情報の保護などが重要な業務として挙げられるでしょう。それぞれの業務について、事業継続における重要度を評価していきます。
対策の検討
特定されたリスクと重要業務に基づき、具体的な対策を検討します。この際、予防的対策と事後対応の両面から検討を行い、費用対効果も考慮しながら実現可能な対策を選定しましょう。
計画書作成
これまでの検討内容を文書化し、具体的な行動計画として整理します。具体的には計画書に以下の項目を記載するとよいでしょう。
・対応体制と役割分担 ・具体的な行動手順 ・必要な資源と調達方法 ・情報伝達ルート |
特に緊急時の指揮系統と連絡体制については、詳細に定めておく必要があります。
訓練の実施
策定した計画の実効性を確認するため、定期的な訓練を実施します。訓練は机上演習から実地訓練まで、段階的に実施することが望ましいでしょう。訓練を通じて明らかになった課題は、計画の改善に活かしていきます。
計画・対策の見直し
BCP対策は、一度策定して終わりではありません。訓練実施後や実際の事案発生後には必ず見直しを行いましょう。また、組織体制の変更時や新たなリスクが発見された際にも、適宜見直しと更新を行うことが大切です。
BCP対策を成功させるためのポイント
BCP対策は計画の策定だけでは十分ではありません。ここでは、成功のためのポイントについて詳しく見ていきましょう。
経営層のリーダーシップとコミットメント
BCP対策の成功には、経営層の強いリーダーシップとコミットメントが不可欠です。予算の確保から人員の配置、さらには方針の明確化まで、経営層の果断な決断が求められる場面は数多くあります。経営層自らが率先して対策の重要性を発信し、組織全体の取り組みをリードしていく姿勢が重要です。
従業員への周知徹底と意識向上
いざというときに計画が機能するためには、全従業員がBCP対策の内容を理解し、自分の役割を十分に把握している必要があります。定期的な研修や訓練を通じて、従業員の意識向上を継続的に図るほか、新入社員教育にもBCP対策の要素を組み込むなど、組織的な取り組みとして定着させることを意識しましょう。
関係機関との連携
行政機関、消防、警察、医療機関などと日頃から連携体制を構築しておくことが欠かせません。定期的な情報交換や合同訓練の実施なども効果的でしょう。また、近隣の商業施設や事業者との相互協力体制の構築も、地域全体の防災力向上という観点から重要な取り組みといえます。
定期的な訓練の実施と見直し
机上の計画を実効性のあるものにするためには、定期的な訓練が欠かせません。訓練はさまざまな状況を想定して実施し、その都度、明らかになった課題を計画に反映させていく必要があります。また、訓練結果の評価と改善点の特定、それに基づく計画の見直しというサイクルを確立することも大切です。
最新の情報収集と活用
BCP対策を取り巻く環境は常に変化しています。新たなリスクの出現や対策手法の登場など、最新の情報を継続的に収集し、自社の対策に反映させていきましょう。業界団体での情報交換や、専門家からの助言なども積極的に活用していくのもおすすめです。
BCP対策の一助となる「はたLuck」
「はたLuck」は商業施設でのBCP対策の一助となるアプリです。どういった機能がBCP対策に活用できるのかを解説しましょう。
「お知らせ」機能で重要なお知らせを一斉通知
緊急時の情報伝達は、BCP対策の要となります。「はたLuck」の「お知らせ」機能を活用することで、全テナントへの迅速な情報共有が可能となります。たとえば商業施設であれば、臨時営業等の連絡を一斉に通知することができるでしょう。
「連絡ノート」で業務連絡できる
「はたLuck」には、日常的な業務連絡から緊急時の状況報告まで、全体への申し送り事項を掲載できる「連絡ノート」機能があります。店舗の店長からシフトワーカーに直接連絡できるため、お店の営業情報だけでなく簡易的な安否確認などにも活用できるでしょう。
「マニュアル管理」で緊急時の対策を共有
BCP関連のマニュアルやガイドラインを「マニュアル管理」機能で一元管理することで、必要な時に必要な情報にすぐにアクセスできる環境が整います。これにより、緊急時の対応手順の確認や、日常的な確認事項の参照が容易になります。
「トーク」機能を活用してこまめにコミュニケーションできる
「はたLuck」の「トーク機能」は一般的なトークアプリと似た操作性で、ストレスなく利用することができます。同じ部署やチーム内など、特定のメンバーのみでトークルームを作ることもできるため、非常時の状況確認はもちろん、店舗内のコミュニケーションを活性化するというメリットもあります。
「デジタル入館証」で入館管理も可能
「はたLuck」にはアプリ上で入館証を発行できる機能があり、入退館管理をデジタルで行えます。アナログの入退館管理と比較してなりすましによる入館を防ぎやすく、セキュリティレベルの向上が期待できる点が特徴です。
さらに、アプリの管理は施設管理者が行うことができるので、退職した従業員のアカウントをすぐに削除することも可能です。入館証を回収できなくなるといったリスクもありません。
被災時に「はたLuck」を活用した事例
「はたLuck」は、日常的な業務効率化だけでなく、実際の災害時においても効果を発揮しています。神奈川県小田原市のショッピングモール「ダイナシティ」では、不審電話事案において「お知らせ」機能を効果的に活用し、タイムリーな注意喚起と情報共有により被害を未然に防いでいます。発生後2時間という短時間で情報を共有し、類似事案の報告を5件以上収集できたことは、一斉通知の有効性を示す好例といえるでしょう。
また、ある大規模商業施設(テナント数=150〜200、テナント従業員数=1,000〜1,200名規模)では、最大震度5強を記録した地震発生時に「はたLuck」を活用し、効果的な危機対応を実現しました。発災後2時間以内に「お知らせ」機能で第一報を配信し、その後7日間で計26件の情報発信を行いました。特に発災直後の4日間は平均80%以上という高い開封率を記録し、情報が確実にテナントに届いていたことが確認されています。
発信された情報は、営業体制や臨時休館に関する案内、管理事務所の臨時連絡先、設備点検・補修状況、従業員向けの支援情報など、状況の変化に応じて必要な情報が逐次配信されました。多い日では1日あたり10件の情報を配信し、テナントが必要とする情報をタイムリーに提供することで、不要な問い合わせを抑制し、事務所のBCP対応業務の効率化にも貢献しました。
このように、「はたLuck」は災害時における情報共有の要として機能し、商業施設の危機管理体制の強化に大きく貢献しています。特に、多数のテナントを抱える大規模商業施設において、迅速かつ確実な情報伝達手段として、その有効性が実証されています。
BCP対策で安全・安心な商業施設・店舗運営をしよう
これまで見てきたように、BCP対策は単なるリスク対策ではなく、お客様と従業員の安全を守り、地域社会への責任を果たすための重要な経営戦略だといえます。
また、「はたLuck」のような効果的なツールを積極的に活用し、より強固なBCP体制の構築を目指していくことも大切です。ツールの導入自体が目的ではなく、あくまでもBCP対策の実効性を高めるための手段として、適切に活用するとよいでしょう。
危機管理で大事なのは「備えあれば憂いなし」です。しかし、ただ漠然と備えるのではなく、具体的なリスクを想定したうえで実効性のある対策を講じることが欠かせません。今日から一歩ずつでもBCP対策に取り組んでみるほか、定期的な見直しと改善を重ねることで、より強固な危機管理体制を築いていきましょう。
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店舗DXコラム編集部
HATALUCKマーケティンググループのスタッフが、記事の企画・執筆・編集を行なっています。店舗や施設を運営する方々向けにシフト作成負担の軽減やコミュニケーション改善、エンゲージメント向上を目的としたDXノウハウや業界の最新情報をお届けします。