
「人手不足」「高い離職率」「採用コストの増大」など、サービス業の経営者や店舗責任者であれば、これらの課題に頭を悩ませていない方はほとんどいないのではないでしょうか。
「もっと給料を上げれば解決するはず」「採用に力を入れれば何とかなる」と考えて施策を打っても、思ったような効果が出ないというケースは珍しくありません。
実は、こうした問題の根本には「従業員満足度(ES)」という視点が欠けていることが多いのです。
本記事では、サービス業においてESが特に重要な理由を背景データとともに解説し、具体的な向上施策と改善事例までをまとめてご紹介します。
現場の課題を解決するヒントの気付きを得ていただければと思います。
目次
人手不足が深刻化するサービス業で、なぜ今「従業員満足度(ES)」が重視されているか
サービス業の人手不足は、もはや「一時的な問題」ではありません。
「採用しても辞めてしまう」「ベテランが育つ前に離職してしまう」といった状況から抜け出せない背景には、給与アップだけでは対応しきれない構造的な課題があります。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査によれば、宿泊業・飲食サービス業のパートタイム労働者の離職率は29.9%、サービス業(他に分類されないもの)でも23.8%と、全産業平均を大きく上回っています。
こうした現状を踏まえ、「従業員満足度(ES)の向上」が経営の最重要テーマとして注目されています。サービス業は「人が直接サービスを届ける」業態である以上、従業員の心理状態がそのまま顧客体験に直結するからです。
給与や待遇の改善はもちろん大切ですが、それだけでは解決できない「働く理由・やりがい」への対応こそが、今まさに求められています。
▼関連記事:従業員満足度(ES)とは?働きやすい環境づくりのためにできること|はたLuck
サービス業を蝕む「人が辞め続ける」現状
厚生労働省の令和6年雇用動向調査によれば、宿泊業・飲食サービス業における一般労働者の離職率は18.1%。これは全産業平均と比較しても高い水準です。
その背景には、低賃金・不規則なシフト・感情労働の負荷という複合的な要因が絡み合っており、一人が辞めると残ったスタッフの負担が増え、さらに次の離職を招くという悪循環に陥りやすい構造があります。
さらに、採用コストが増大し続けるにもかかわらず、問題の根本が解消されないという現実も深刻です。労働政策研究・研修機構(JILPT)の人手不足とその対応に係る調査(事業所調査)(2024年)では、ICT投資による「業務効率向上効果あり」と回答した事業所は69.6%に上る一方、「人手不足解消効果あり」とした事業所は35.4%にとどまっています。
デジタル化だけでは人材問題の根本的な解決には至らないことが、データからも明らかです。現場の疲弊を食い止めるためには、従業員が「ここで働き続けたい」と思える環境をつくることが欠かせません。
「給与を上げれば解決する」は時代遅れ――ESが注目される本当の理由
もちろん、賃上げや福利厚生の改善は重要な施策のひとつです。
しかし、それだけでは従業員の定着やモチベーションの向上には限界があることが、エンゲージメント研究でも示されています。
従業員満足度(ES)は、「職場環境の快適さ・上司や同僚との関係性・給与や福利厚生・キャリアパスの明確さ」など多面的な要素によって構成されます。
つまり、「仕事の意義を感じられるか」「職場に居場所があるか」「成長を実感できるか」といった内発的な動機に応えることが、ESを高め離職を防ぐことにつながります。
毎月の給与明細だけではなく、「明日もここで働きたい」という感情を支える要素に目を向けることが、今の時代にESが必要な理由です。
金銭的報酬だけでは届かない部分にこそ、離職率を低める施策のヒントがあります。
従業員満足度(ES)とは何か|3つの構成要素
ESとは、”職場の雰囲気が良い”というふんわりした概念ではなく、明確な構成要素を持つ経営指標です。
ES(Employee Satisfaction)とは、従業員が職場環境・人間関係・待遇・仕事内容などに対してどれだけ満足しているかを示す指標であり、大きく3つの要素から成り立ちます。
具体的には、下記の3つです。
①心理的安全性(安心して発言・行動できる環境)
②働きやすさ(業務負荷・シフト・評価の公正感)
③やりがい(承認・成長・キャリア展望)
なお、よく混同されるエンゲージメントとの違いについては「居心地の良さを測るのがES、会社への貢献意欲を測るのがエンゲージメント」と整理することができます。
ESを土台としながらエンゲージメントへと高めていくことが理想的なプロセスであり、この定義を正しく理解することが、的外れな施策を防ぐ第一歩になります。
「なんとなく雰囲気を良くする」ではなく、3つの要素のどこに課題があるのかを見極めた上で施策を考えることが重要です。
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従業員エンゲージメントを向上させる5つの方法|はたLuck
ESを構成する3要素と、サービス業で特に重要な心理的安全性
ESの3要素のなかでも、サービス業の現場において最も重要な土台となるのが「心理的安全性」です。
失敗を責められない、意見を言いやすい雰囲気があってこそ、働きやすさややりがいへの施策が初めて効果を発揮します。
Googleの「Project Aristotle」でも、高パフォーマンスチームに共通する最重要因子として心理的安全性が挙げられています。
店舗の現場では「叱られるからミスを隠す」「忙しくて質問できない」という状況が日常化しがちです。これが積み重なることでESが下がり、接客品質の低下にも直結してしまいます。
逆に言えば、心理的安全性が確保された職場では、スタッフが自ら改善提案をしたり、お客様に対して積極的に声をかけたりと、プラスの行動が生まれやすくなります。
心理的安全性を高めることは、従業員のためだけでなく、顧客へのサービス品質を守るためにも欠かせない視点です。
ESとCSの関係性
「従業員が満足して働いている職場は、お客様にも伝わる」ということは理論的にも裏付けられています。
ハーバード大学のヘスケット・サッサー両教授が1994年に提唱したSPC(サービス・プロフィット・チェーン)理論では、「従業員満足度の向上→サービス品質の向上→顧客満足度の向上→粗利益の向上」という循環があると提唱されています。
この理論は日本のホテル業を対象にした6年間の追跡調査でも実証されており、ESとCS(顧客満足度)の正の相関が確認されています。
スタッフの満足度が上がれば接客の質が上がり、顧客満足度が向上し、最終的に業績改善へとつながるという好循環こそが、ESへの投資を「コスト」ではなく「戦略」として捉えるべき根拠になっています。
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サービス業でESが低下しやすい現場特有の3つの課題
ESの重要性はわかっていても、「具体的に何が問題なのかよくわからない」という声も少なくありません。
サービス業の現場で良くある課題として、以下の3つが挙げられます。
①シフト管理の属人化
②コミュニケーション不足
③教育体制の未整備
実際にはこれらの課題が同時に発生していて、それがESを下げる要因になっていることが多いのではないでしょうか。
ここではそれぞれの課題についてどうESに影響するのかについて解説します。
自社の課題はどこにありそうか、どう解決すべきかを見定めるために参考にしていただけたらと思います。
①シフト管理の不透明さ
手作業・口頭・紙ベースのシフト管理は、スタッフに「自分の希望が通らない」「どうやって決まっているかわからない」という不信感を生みます。
この“見えない不公平感”こそが、ESを低下させる直接的な要因のひとつです。
シフト希望の提出や確定シフトの確認に手間や負担がかかると、働く意欲がそがれ、従業員満足度の低下につながります。
また、管理する側の店長やマネージャーにとっても、シフト調整に膨大な時間と労力がかかることで、スタッフとのコミュニケーションに割く余裕がなくなってしまうという問題も生じます。
後述する事例でも、FAXや紙ベースの情報共有からデジタル化へ移行することでスタッフのストレスが大きく軽減されたことが報告されています。
シフト管理の透明性を高めることは、スタッフと管理側、双方の信頼関係を築く第一歩になり得ます。
②情報格差とコミュニケーション不足
本部とスタッフ、あるいはスタッフ同士の情報共有が不十分な職場では、スタッフが「何のために働いているのか」を見失いやすくなります。
情報共有が足りていないと、従業員は孤立感を感じ、モチベーションが低下し、最終的には離職につながります。
特にアルバイト・パートとして働くシフトワーカーは、正社員と比べて情報量が少なく、意図的に共有の仕組みを整えない限り疎外感が生じやすいです。
「知らされていない」「自分だけ蚊帳の外」という感覚は、帰属意識の低下にも直結します。
さらに、店長やSVからのフィードバックが少ない職場では、自分の仕事がどう評価されているかもわからず、モチベーションを維持するのが難しいです。
つまり情報をオープンにし、双方向でやりとりできる環境をつくることが、コミュニケーション課題の根本的な解消につながるということです。
③教育体制の不備
わからないことがあった際に「見て覚えて」「先輩に聞いて」といったコミュニケーションが多く、その場その場でインプットしないといけないような現場では、新人スタッフが「ここにいても成長できない」と感じて早期に離職するリスクが高いです。
マニュアルが整っていない、誰に聞けばいいかわからない、自分がどこまで成長しているか見えないといった状況が続くほど、「ここにいても意味がない」という感情が生まれやすくなります。
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によれば、生活関連サービス業・娯楽業の平均賃金は全産業平均(318,300円)を大きく下回る278,700円です。
賃金面で優位性を出しにくいサービス業においては、「成長・教育」「やりがい」への投資こそが定着の決め手になります。
給与では他業種に劣る部分があるからこそ、「ここで働けば自分が成長できる」という実感を提供できるかどうかが、特に若年層・新入スタッフの定着を左右する重要なポイントになります。
ESを業績向上に直結させる「3つの施策とポイント」

前章で見てきた3つの課題——シフト管理の不透明さ・情報格差・教育体制の不備——に対応する形で、ES向上の施策を考えることが重要です。
具体的には大きく以下の3つの施策が重要です。
①業務効率化による心の余裕の創出
②承認と称賛の文化の仕組み化
③キャリアパスとスキルの見える化
このように情報共有・承認・成長支援の三位一体の取り組みがES向上の鍵であり、SPC理論に基づいても、ES向上がサービス品質・顧客満足度・利益という連鎖を生むことが示されています。「何から手をつければいいかわからない」という方も、この3つのポイントを起点に考えることで、自社の現場に合った施策のイメージが見えてくるはずです。
① ツールを活用した業務効率化で心の余裕を生み出す
煩雑なシフト管理・連絡業務をデジタル化することは、単なる「便利さ」の話ではありません。スタッフの「無駄なストレス」を取り除き、接客やチームのコミュニケーションに集中できる環境を整えることが、ESの底上げに直結します。
はたLuckの導入実績では、シフト作成1回あたりの平均業務時間を約70%削減した事例が報告されています。
また、JILPTの人手不足とその対応に係る調査でもICT投資による「業務効率向上効果あり」は69.6%に上ることが確認されています。
管理する側の工数が減れば、スタッフと向き合う時間が増えます。スタッフ側もシフト申請・確認の手間が減れば、余計なストレスなく仕事に集中できます。
② 称賛される文化をつくる
頑張りが見える形で認められることは、金銭的な報酬と同じくらい以上にモチベーションに影響します。
特にアルバイト・パートが多いサービス業では、「ありがとう」「よく頑張ったね」という言葉や承認の積み重ねが、帰属意識を高め離職防止に有効に働きます。
大切なのは、こうした承認を“個人の気遣い”に頼るのではなく、仕組みとして定着させることです。
仕組み化の例として、はたLuckには「星を贈る」機能があり、「感謝・応援・期待・頑張った」という気持ちをデジタルで気軽に伝えることができます。
このような称賛の仕組みは、スタッフ同士の相互理解やチームワークの醸成にも貢献しています。
さらに従業員優待クーポンなど金銭以外のインセンティブ機能と組み合わせることで、承認文化を職場全体に根づかせることができます。
「誰かに見てもらえている」という実感が、日々の仕事へのやる気に直結するのです。
③ マニュアルを整備し教育コストを削減
いつでもどこでも確認できるようにマニュアルを整備することで教育コストを削減することができます。
実業務をこなしながらだと、教育に十分な時間をかけることができず、新人が業務に馴染めず育成期間に辞めてしまうといったことも起こり得ます。
そういった事態を防ぐには誰かに聞かないとわからない状況をなくす必要があります。
特にサービス業では外国籍スタッフも増えているため、言葉の壁によって口頭での伝達だと理解しきれないこともあります。
そのため、マニュアルも動画や画像を使用して誰でもわかるように整備するのがポイントです。
はたLuckのマニュアル機能では、動画・PDFを使っていつでも閲覧できるマニュアルを整備でき、AIによる多言語翻訳にも対応しているため、外国籍スタッフが多い現場でも教育の標準化を実現できます。
「いつでも・どこでも・自分のペースで学べる」環境が整うことで、新人スタッフの不安が軽減され、早期離職の防止にもつながります。
スキル管理との組み合わせで「見える成長」を提供することが、長期的なエンゲージメントの底上げになります。
詳しくははたLuckの機能紹介ページや資料ダウンロードでご確認いただけます。
【事例】ES向上が店舗を変えた―コミュニケーション改善から業績アップへ
「理論はわかるけれど、実際にどんな変化が起きるの?」そう思う方のために、はたLuckを導入した企業の実例をご紹介します。それぞれの企業が、どのような課題を抱え、どのように変化していったのかをぜひご覧ください。
実際にはたLuckを導入した企業では、コミュニケーション改善・シフト効率化・情報共有の仕組み化を通じてES向上を実現し、現場の活性化・顧客満足度の向上・業績改善へとつながった事例が多数報告されています。
株式会社ハブ様(英国風PUB「HUB」運営)の事例
株式会社ハブでは、シフト作成業務の負荷を大幅に軽減するとともに、コミュニケーション改善を通じた生産性向上を実現。その利益をクルーに還元するという好循環が生まれました。
現場で働くスタッフが「自分たちの頑張りが報われている」と感じられる仕組みが整ったことが、ES向上に大きく貢献しています。
株式会社ピエトロ様の事例
株式会社ピエトロでは、レストラン運営でのコミュニケーション負担の軽減とセキュリティリスクの回避を達成。個人のスマートフォンやLINEグループに頼っていた情報共有を公式のツールに一本化することで、管理の透明性が高まり、現場スタッフの安心感にもつながりました。
日清プラザ株式会社様の事例
日清プラザ株式会社は、人材確保の観点からES向上を重視してはたLuckを導入。テナントとのコミュニケーション改善を実現し、複数店舗・多様なスタッフが関わる複雑な環境においても、情報共有の仕組みを整備することで現場の一体感を高めることができました。
株式会社グレープストーン様
株式会社グレープストーンでは、FAXや大学ノートによるアナログなやり取りからデジタルの連絡ノートへ移行することでペーパーレス化を実現。業務の効率化が単なる時短にとどまらず、「従業員がいきいきと働ける職場づくり」として職場の雰囲気そのものを変える力を持っていることが、この事例からも伝わってきます。
4社に共通しているのは、「仕組みを変えたことで、現場の空気が変わった」という点です。
特定の誰かの頑張りや気遣いに頼るのではなく、仕組みとして定着させることが、ES向上の持続的な成果につながっています。
自社の課題に近い事例を詳しく見たい方は、はたLuck導入事例一覧をぜひご覧ください。
従業員満足度向上施策への投資は「コスト」ではなく「戦略」である

ES向上の取り組みを「福利厚生の充実」や「ちょっとした気遣い」として捉えている方には、ぜひ視点を変えていただきたいと思います。
採用コストの削減・定着率の改善・接客品質の向上・顧客満足度のアップ・そして業績改善——これらはすべてESへの投資が生み出す結果です。
賃金で勝負しにくいサービス業だからこそ、「心理的な満足・承認・成長・帰属意識」に向き合うことが、競合他社との本質的な差別化につながります。
そして重要なのは、大規模な予算や専門チームがなくても始められるという点です。
はたLuckのような店舗DXツールを活用することで、中小規模の店舗でもコミュニケーション・教育・承認の仕組みをデジタルで実装でき、小さな一歩からES向上を実現することができます。
「うちの規模では難しい」「何から手をつければいいかわからないと感じている方も、まずは現場の課題を整理するところから始めてみてください。
はたLuckでは、現場の課題の整理から必要な施策のご提案までサポートしています。
現場のESに課題を感じている方はぜひ一度ご相談ください。
この記事の監修

滝澤美帆
学習院大学 経済学部 教授
専門はマクロ経済学・生産性分析・データ分析。2008 年一橋大学博士(経済学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、東洋大学、ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム研究員などを経て、2019 年学習院大学准教授。2020 年より現職。現在、産業構造審議会、中小企業政策審議会など複数の中央省庁委員や東京大学エコノミックコンサルティング㈱のアドバイザー、企業の社外取締役を務める。
著書に『グラフィックマクロ経済学第3版(宮川努氏・外木暁幸氏との共著)』(新世社)などがある。

店舗DXコラム編集部
HATALUCKマーケティンググループのスタッフが、記事の企画・執筆・編集を行なっています。店舗や施設を運営する方々向けにシフト作成負担の軽減やコミュニケーション改善、エンゲージメント向上を目的としたDXノウハウや業界の最新情報をお届けします。
